経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるブログ

財政の戦略を良くするって、どうすれば

 リフレで成長とか、財政出動で景気回復とかいうのは、体重を増やせば相撲に勝てるみたいなもので、方向は間違っていないが、粗すぎて、まともに役立たないどころか、膝腰を痛めるような弊害を起こしがちだ。しかも、これらの論者は、問題を指摘されると、根本まで否定されたと感じるらしく、聞く耳を持たないのも特徴である。経済政策の戦略でも、神は細部に宿るのである。

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 デフレ時代の財政の戦略の誤りは、輸出で景気が回復しかけたところで、補正予算を一気に切ったり、税・負担増をしたりで、急激な緊縮を行い、成長、とりわけ、円安で弱まる消費にブレーキをかけてきたことだ。すなわち、採るべき財政の戦略は、緩やかな撤退を図ることである。コロナ後は、たまたまであるが、従来の拙い戦略に陥らずに済んでいて、高市政権の財政も、その範囲にある。

 安倍政権がリフレで上手く行ったのは、円高を是正して輸出を回復させたからで、賃金や消費が伸びなかったのは、緊縮で回復を波及させなかったためである。ここで重要なのは、リフレ派の理論とは異なり、金融緩和は、直接、設備投資を引き出したわけではないし、財政のデフレ圧力を跳ね除ける力もなかったということだ。見誤りは認めるべきで、仇打ちのように粗い拡張財政を主張して取り繕ってはなるまい。

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 このところ目立つのは、財政赤字への批判である。伝統的なものに加え、長期金利の高まりと政権入りしたリフレ派が高圧経済を唱えるがゆえの不安があるからだろう。もっとも、デフレから脱却し、物価高を追って植田日銀が利上げを進めているのだから、金利上昇は当然で、問題視する筋合いではない。ただ、利上げにネガティブな高市政権の姿勢が、円安と物価高の思惑から、金利を高めているのは余計ではある。

 財政赤字の管理は、財政への信用を保つこと、すなわち、持続可能だと思ってもらうことが目的である。そうして、金利が跳ねるといった困った事態が起こらないようにしている。したがって、財政赤字はいくら出しても平気だという理論を並べても、信じてもらえなければ、何の意味もない。一応、基礎的財政収支が均衡していれば、債務が無限大に発散しないから大丈夫とされており、これを目標に据えておくのは大事である。

 高市政権は、当初予算で、これに到達した。補正予算の段階で赤字に戻るにしても、補正は裁量的に減らせるものだから、意義は小さくない。景気が過熱して、物価高、金利高の状況でなら、補正で需要を追加する必然性はなく、調整は難しくない。今後は、景気を減速させない程度に徐々に規模を縮減して行けば良い。戦略としては、これで十分だろう。とは言え、基礎収支の均衡を超えて、更に信用度を高める方法もある。

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 基礎収支の均衡の理屈は、金利上昇に伴って増す利払費の全部を国債で賄っても、名目GDP金利並みに伸びているなら、政府債務とGDPの比率は変わらないので、財政は持続可能というものだ。いわば、金利分だけ借金が膨らんでも、収入も増えているから、抱えていても心配ないという状態である。しかし、借金が膨らむこと自体が不安で、収入が思うように増えないときもあるという懸念も分からなくはない。

 それなら、利払費のうちの金利上昇分は、基礎収支を黒字にし、税収で賄うことにすれば良い。高市政権の2026年度予算は、既に、その形になっている。この方法は、意外と容易だ。なぜなら、金利上昇で、金融資産の利子配当に対する税収も増すからである。民間の金融資産は3870兆円だから、金利が0.1%上がって税率が2割だと、0.8兆円の税収増が見込め、日銀保有分を除く政府債務840兆円の金利上昇分0.8兆円を概ね賄える計算になる。加えて、補正で債務残高を増やしたら、その利払分も黒字化する方法もある。例えば、10兆円補正なら、その2%の0.2兆円を本予算で黒字化する。

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 財政赤字が批判されるのは、エコノミストにとって、低金利の方が資産価格の上昇に結びつくからという側面もあるにせよ、財政赤字は経済を不効率にするという経済理論に根差した不信感があるからだろう。需要と供給が均衡しているとき、財政赤字を出すと、金利を上昇させ、民間投資を押しのけ、成長を鈍らせてしまう。こんな立場だと、財政赤字は罪悪であり、批判もしたくなるというものだ。

 しかし、現実の経済では、不合理にも消費や投資が十分になされない事態が起こる。この場合、民間に代わって政府が使えば、供給が無駄にならずに済み、経済は効率的になる。財政赤字を出しても、物価が上がらず、輸入も増えないなら、功績になるわけだ。ただし、国債財政赤字を賄うと、それを持つ人に購買力が残ったままだから、あとで出現するとなると、供給は既に使っているので、インフレになるという心配はある。

 それでも、人はお金を抱えたまま亡くなり、国債相続税で回収され、未然に終わりそうだし、万一、購買力が現れるようなら、そのときにこそ、消費増税で削ぐという手段がある。いずれにせよ、さしあたりの供給を無駄にしてしまうよりはマシというものだ。結局、財政赤字とは、不合理の是正の産物であり、元本を削減するために、あえて緊縮をする必然性は、乏しいということである。

(図)

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 筆者は、オールドなケインジアンで、経済に適切な財政運営という観点から、このコラムを書いており、景気回復時の不用意な緊縮を批判の的にしていた。それなのに、次の財政再建の目標だの、緊縮の方法だのを語るはめになるとはね。これまでの財政再建の目標の置き方は、適切な財政運営の妨げだったし、2026年度予算の組み方は偶然だろうから、御当局は、ちゃんと戦略を示してもらいたい。知恵を出さないから、「純債務残高対GDP比」みたいなものが世を惑わすわけだ。

 ところで、今日の日経社説は、緊縮と自由化で成長するというナイーブな信念の表明だったね。多かれ少なかれ、こういう思想が主流だから始末が悪い。緩やかながら緊縮を進めている実態は無視で、何を自由化すると設備投資が得られるかは考えない。実証なき麗しいイデオロギーに酔っているだけだ。まさか、緊縮の中で予算を増やし、武器輸出の解禁で成長の期待が高まっている防衛産業が念頭ではないでしょうな。論説は、シンネンには社是を読み返したら良いよ。 

 

(今日までの日経)
 広がる日本の経済格差「上位0.01%層」、所得2%占める 低・中間層は貧困化、「1億円の壁」の是正策。BYD、EV世界首位。「130万円の壁」残業代含めず。一帯一路の稼ぎ 対米超え。社説・質を欠く財政と成長から脱却せよ。